海の絆、永遠の別れ

   

 日本のさびれた漁村・陰洲舛村に住む海人は、海辺で遊ぶのが大好きな少年でした。ある日、海人が浜辺で遊んでいると、不思議な生き物に出会いました。それは、半分は犬のような姿をしていて、もう半分は魚のような姿をした半魚犬でした。
その不思議な動物はきらきらと輝く鱗を持ち、尾ひれが風に揺れる姿がとても美しく見えました。

 半魚犬は、人間の言葉を喋ることはできませんでしたが、海人の言うことは理解できるようでした。
海人は半魚犬と意思疎通ができることに驚き、「アクア」と名付けました。
彼らは海辺で楽しい時間を過ごし、海辺の生き物たちと交流しました。海人にとって、アクアは特別な友だちであり、心の支えでした。

 しかし、ある日、海に異変が起こり始めました。海の水が濁り、海の生き物たちが次々と死んでいくのです。村の漁師たちは困惑し、村人たちは心配の声を上げました。海人はアクアと共に海を調査しましたが、原因を突き止めることができませんでした。

 やがて、村に暗雲が立ち込めました。病気のようなものが村人たちに広がり出したのです。
海人の家族も例外ではありませんでした。医者たちが治療に努めましたが、どうにも症状は改善しません。

 絶望的な状況の中、海人はあることに気付きました。海の変化と村人たちの病気が何かしら関係していると。アクアに助けを求めましたが、彼は何も答えることができませんでした。

「どうして…君は何か知っているはずなのに、何も言わないんだ?」

 海人は悲しみを抱えて問いかけますが、アクアは寂しそうな目で見つめるだけでした。

 海人は絶望と決意の中で、村人たちが病気になった原因を一人で探り始めました。
そしてついに海の汚染が原因であることを突き止めました。
最近、村の近くにできた工場がこっそりと廃水を海に流していたのです。

 しかし、時すでに遅く、海の汚染は広がっていました。海の生き物たちは次々と死に、村人たちの病気も悪化していきます。海人は怒りと絶望の中で泣き崩れました。

 やがて、陰洲舛村からはひっそり人がいなくなっていきました。海人の家族も含め、多くの村人が海の汚染によって命を落とし、残った人々も村を捨てて出ていったのです。
海人もまた最愛の半魚犬アクアと別れて村を去り、悲しみに暮れる日々を過ごしました。

 村に残してきたアクアは喋れず、何も伝えることができませんでしたが、彼らの絆は深く、心が通じ合っていたことを海人は知っていました。
アクアとの思い出を胸に刻み続けた海人は、海を愛し、守る決意を胸に秘めたまま、残された生涯を過ごすのでした。

(了)

※noteからの転記です

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